宮城県図書館の古典籍移管問題について/東北学院大非常勤講師・萱場健之

 私は宮城県図書館の旧職員で、在職中は主として古典籍の整理を担当しました。退職して10年以上たちますが、2月25日付河北新報報道には驚きました。全国の図書館・研究者から評価されてきた、「図書館の誇り」というべき古典籍をすべて東北歴史博物館に移すことに決まったというのです。私は長い期間、これら11万点余の資料を先輩たちと整理し、5冊の目録として刊行しました。そのほとんどを見、触れていますから、糸とじ本一冊一冊に愛着があります。
 その後、県議会に「移管の即時停止並びに移管決定に至る手続きの公開」の請願があり(私も参加しました)、「宮城県図書館のあり方を考える会」などの応援もあって、請願は採択され、移管は停止となりました。
 県教委から9月1日、請願者宛に「移管作業は停止するが、県民から意見をもらって再検討したい」との通知がありました。どうやら移管問題の論議は継続の模様です。そこで、県教委の文書に記されている移管決定の理由の3項目をそのまま掲げて、私見を述べてみます。
 (1)「県民の財産である文化財資料等を適切に評価・管理するためには、専門の学芸員による調査研究が必要」
 「文化財資料」という名称は、文化財保護の観点からの呼び方で、図書館では古典籍・古書というのが普通です。図書館の役割は、誰でもすぐに探し出せるように整理し、目録を刊行し、使いたいという人に使ってもらうことです。特に文化財指定のために調査研究が必要なときは、図書館において司書・学芸員・専門家の共同作業で行うべきです。
 (2)「文化財資料の保管にあたっては文化財保護に適した保管環境機能が必要」
 県図書館は1998年の新築移転に際し、県教委と協議して、多数の古典籍保管のため古書を数冊まとめてくるむ「ちつ」を外注しました。また貴重書ならびに仙台版版木を保管するのに、旧館にはなかった貴重書庫を作り、その他の古典籍は最上階の書庫に収蔵しました。十分な対応と確信しております。
 図書館長は6月30日付河北新報に「文化財資料の収蔵庫は、空調管理と断熱構造に問題があり、資料が劣化しつつある。早急に移管すべきだ」と述べております。しかし、具体的な劣化の例は全く挙げておらず、ただあるべき空調管理の数値をあげているだけです。
 古典籍の多くは江戸時代の手すき和紙を用いた書物です。さまざまな環境のなか何百年も生き続けてきたものばかりです。秘蔵するより、県民に公開すべきであります。
 (3)「文化財資料を広く県民に公開するためには的確な展示企画機能、十分な展示スペースが必要」
 まさにこのことのために、図書館新築の際、二階に展示室を作り、「本の歴史」の常設展とそのときどきの企画展を行っています。いまの展示室が不十分な理由を伺いたいものです。
 最後に。和本専門の古書店主の橋口侯之介氏は『和本入門』(平凡社)で、「和紙が千年残ることは実証済みである」とした上で、和本を生かす方法を「敬して遠ざけるのでなく、身近で親しめる対象として見ること」と述べ、図書館では文化財として大事に保管すべき本と自由に閲覧してもいい本の区別をすればいいと提言されています。
 まさに従来の県図書館はそのようにやってきたのです。
                  (河北新報平成23年10月9日朝刊掲載)