請願採択についての賛成討論
宮城県議会議員 相沢光哉
討論「宮城県図書館資料の東北歴史博物館への移管の即時停止並びに移管決定に到る手続きの公開に関する請願書」
○議長(畠山和純君) 59番相沢光哉君。
〔59番 相沢光哉君登壇〕
◆59番(相沢光哉君)
ただいま上程されている請願三三〇の三、宮城県図書館資料の東北歴史博物館への移管の即時停止並びに移管決定に到る手続きの公開に関する請願書の採決に当たり、採択に賛成の立場から討論を行います。
本宮城県議会で、当該案件に関する反対討論がない中での賛成討論は、昭和41年12月の第125回定例会での市町の廃置分合について以来のことであり、極めて異例のことと承知しておりますが、本請願審査に至るこれまでの経緯と事の重要性を出席されている議員諸兄によく御理解願うとともに、あわせて、村井知事、三浦・若生両副知事、大村教育委員長、小林教育長を初め教育委員会の方々全員に改めてこの問題の本質をしっかり御認識いただき、将来に大きな禍根を残すことのない賢明な正しい判断と選択を行っていただくことを願って、討論に入りたいと思います。
まず、私の主張を明快に述べさせていただければ、宮城県図書館の根幹にかかわる図書館所蔵資料約111500点を役割、使命の異なる東北歴史博物館に移管することは、本県の文化行政の1大汚点となり、これまで、そしてこれからも県図書館を利用する多くの県民に大きな不利益を与えるだけでなく、我が国の学術文化の振興に甚大な支障を及ぼす県教育委員会の暴挙、愚挙であると断ぜざるを得ません。そして、移管を決定するに至った不透明な手続や、2月議会に十分な事前の説明もないまま、急ぐ必要もない移管経費をこっそりと平成22年度補正予算案に盛り込み、委員会や議会の議決を得てしまったやり口は、欺瞞行為とは言わずとも、少なくとも議会に対する不誠実な行為としての批判は免れないものでしょう。請願者が移管の即時停止を求め、移管を決定するに至った手続を公開してほしいという要望は、至極真っ当なことであります。
ここで、県教委が文教警察委員会で説明してきた移管の必要性や移管後の東北歴史博物館での対応について詳しく述べる時間はありませんが、明らかに誤りであり、無意味であることのみ、数点指摘しておきます。
1つは、これまで県図書館で、現館長を除く歴代の館長や司書など専門職員が営々として努力し、取得してきた県図書館所蔵の文化財について、博物館の学芸員が協力してきたことは、一例もありません。特に文化財指定に顕著な功績を残したのは、伊達前館長時代であり、平成14年3月末に図書館所蔵の文化財が、国指定12点であったものが、平成19年9月末には、文化庁が認定した国、県指定2219点、国登録文化財5664点と、飛躍的に増加したことを私どもはしっかり認識すべきであります。そして、これらのことが仙台が日本図書館の歴史上、公共図書館の発祥の地と認められていることと相まって、本年創立130周年を迎える宮城県図書館の名声を確固たるものにしているゆえんなのであります。
また、委員会での答弁で、教育長は、これまでも図書館から博物館へ移管したことはあると述べておられるようですが、図書ということであれば、これまで1冊たりとも移管した事実はなく、わずかに近世の手紙である手書き文書を歴史博物館に、明治以降の県庁文書を公文書館へ移管した事例のみであります。
更に、移管後の博物館では、学芸員が利用者のために講師となって講座を開いたり、文化財指定を進めるとなっていますが、図書の専門的知識に乏しい学芸員が専門的知見を求められるケースに対応できるはずもありません。また、万国法とも言うべき図書館法によって、公立図書館は、所蔵資料を何人も自由に無料で閲覧できるのが大きな特徴です。そして、必要であれば、貴重なレプリカの貸し出しや司書ら専門職の派遣を含め、一般公衆の利用に供する使命と目的を有しています。
一方の博物館は、資料の収集、保管、展示をもって一般公衆の利用に供し、調査研究を行うことが目的とされています。つまり、資料はガラスケースの中などで展示することが通例で、手にとって見たり調べたりすることはできません。そして、外国と違って、我が国の博物館はほとんどが有料で、東北歴史博物館も同様であります。
図書館の法令上の定義に調査研究が記載されていないことをもって、調査研究、すなわち今後の文化財指定は博物館の学芸員が取り組むことが望ましいと言うなどは、全く噴飯ものであります。委員会での疑問に対して、移管した図書は閲覧できるように工夫する、
料金も無料にするなどという答弁は、いかにもつけ焼き刃のびほう策で、それなら、図書館から移管する必要もありません。
今回の一連の事案は、2月25日付河北新報一面で報道された「宮城県図書館の魂移管 東北歴史博物館へ 専門家ら再考を」という記事によって初めて知った方がほとんどであると思います。さきに述べたように、所管の文教警察委員会も、議会で年度末、しかも選挙を直前にした時期で、先議で可決した補正予算の中身を十分吟味できなかったことは、うかつと言えばうかつでありますが、うがって考えれば、議員心理を巧みについた高等戦術の術中にはまったとも見てとれます。なぜなら、移管は、当初から6月までと予定されており、わざわざ多忙な年度末に慌しくしなければならない理由は全くありません。議員諸兄、恐るべし、官僚の策略と思われませんか。
更に、全く腑に落ちないのは、これだけ重要な事案が県図書館の諮問機関である図書館協議会に一切諮られず、2月18日になって初めて結果報告として知らされたという事実です。このことに対し、「青柳文庫、伊達文庫、養賢堂文庫は、県図書館の最も基本となる蔵書で、多くの研究者に利用されている。移管は、県民の意見を聞いてから決定すべきだ」と抗議した協議会長に対し、現館長は、「既に決定したこと」と全く聞く耳を持たず、
あろうことか、聞くにたえない罵声を協議会長に浴びせたことを複数の関係者が証言しております。
過日の産経新聞で、現館長は大震災後ほとんど図書館に出勤しなかったと報じられました。調べてみましたところ、大震災後、3月は1日のみ、4月は3日間だけの出勤でありました。図書館職員が一生懸命再開に向け努力し、県庁挙げて災害対策に心血を注いでいるとき、どのような理由があって、このようなことが許されるのか、上級管理者の監督責任も問われるのではないでしょうか。
さて、「天網恢恢疎にして漏らさず」という言葉があります。今回の請願審査に関して、まさにその言葉に感じ入ります。本請願は、本来、3月末をもって継続審査で廃案となるべき運命でした。既に可決した移管に係る補正予算を執行して、図書館から博物館へ貴重なかつ膨大な文化財資料は粛々と移管が進められたはずでした。しかし、3月11日の東日本大震災により状況が一変し、任期切れになるはずだった議会も委員会も自動延長となり、東北歴史博物館がある多賀城市も甚大な被害を受け、移管作業は中止となりました。
爾来、文教警察委員会は同じメンバーで請願を審査し、今月16日、全会一致で請願を採択したことにより、本日の本会議上程となったものであります。私は、寺島委員長を初め委員各位が、2月の補正予算を可決したにもかかわらず、移管の即時中止の請願を一人の反対者もなく採択したことに、紹介議員の一人として心からの敬意と感謝をあらわすものであります。それは、四カ月間にわたった請願審査の結果、同じ委員会メンバーが正反対の結論に達したことを示しているからにほかならず、討論後の採決でも間違いなく採択が決定すると予想されることから、私ども議会がこの問題に対し県教委のこれまでの方針にはっきりとノーという意思を示したものと重く受けとめていただきたいということであります。しかし、重さの点で、予算案議決と請願採択を比べれば、請願には強制力がなく、
予算執行権は執行部に固有の権利として認められておりますから、2月補正予算可決が請願採択よりはるかに重い価値を持つことは否定すべくもありません。
そこで、改めて申し上げます。村井知事、三浦・若生両副知事、大村教育委員長、小林教育長。私ども議会は、2月の決定を誤ったものとまさに認めようとしております。論語にいわく、「過ちては則ち改むるにはばかることなかれ」、またいわく、「過ちて改めざる、これを過ちという」。わだかまりを捨て、自分の体面などにこだわらずに、虚心にこの案件を見れば、宮城県政のトップにある者として、また、県教育行政の責任者としての行動は、図書は図書館に戻す、図書館が営々として築いてきた文化財、例えば、各文庫はもとより、元禄国絵図、御領分絵図、坤輿万国全図など、文化財は図書館に戻す、博物館の内容充実は別途真剣に考える、図書館と博物館の役割機能は、それぞれ本来の姿に戻すことに収束すべきであります。そして、具体的には、9月議会において、移管中止に伴う補正予算の提案を行い、議会の議決を得ていただきたいと心からお願いいたします。
今、宮城県図書館の将来を憂える声、始皇帝の焚書にも似た蛮行に怒る声は、日本じゅうにほうはいとして沸き起こっております。電気通信大学准教授、佐藤賢一氏を代表とする「宮城県図書館蔵書のあり方を考える会」の緊急アピールの呼びかけに賛同した著名人は既に120名を超え、主だった方々を紹介しますと、作家で日本ペンクラブ会長の阿刀田高、浅田次郎、赤川次郎、永六輔、落合信彦、瀬戸内寂聴、田原総一朗、なかにし礼、
湯川れい子氏ら作家、評論家、赤坂憲雄、阿部兼也氏ら学者、文学者、大立目謙直、郷古康郎、熊谷繁、伊達宗弘氏ら宮城県図書館長経験者、熊谷公平、齋藤雅英、石田義光、沢井清氏ら県図書館協議会元現会長、佐藤憲一、濱田直継氏ら仙台市博物館元館長など、そうそうたる方々が名を連ねております。かつて、中国では、文化大革命の名のもとに、大変な文化破壊が起こりました。同じような文化破壊が、今、宮城県で起こりつつあります。
村井知事。知事は、文藝春秋7月号で、日本復興を託せる次の総理はだれかの識者アンケートで堂々と名前が挙げられております。東日本大震災で注目を浴びたせっかくのリーダーシップが、図書館問題の対処によっては、県行政の最高責任者として鼎の軽重を問われかねません。一国は、一人をもって興り、一人をもって滅ぶと言われます。
知事の白紙撤回の英断を心から期待し、議員諸兄の御賛同を願って賛成討論を終わります。
御清聴ありがとうございました。